本記事には接客の現場で気をつけている準備のことを書いています。
こどもの日の前後は、お部屋の中で気をつけることがいくつか変わります。
四月までの寒さで身体を縮めていらしていた方が、五月に入ると半袖でいらっしゃるようになる。
私の側の準備も、それに合わせて切り替わります。
まずお部屋に入って最初に確認するのは、空調の設定温度です。
五月は外気温の変動が大きく、昼間に二十五度を超えた日でも、深夜は十五度近くまで下がります。
お客様が来られた時間に体感されている温度と、眠りに入る数時間後の体温は別ものです。
お部屋に着いてすぐにエアコンの設定をいじるのは、生活感が出てしまうのであまりしません。
事前にホテルに入った段階で、その日の天気予報と就寝予定時刻から逆算して、設定温度と風量を決めておきます。
次に確認するのは、自分の指先です。
五月は乾燥が緩んでくる代わりに、汗をかきやすくなります。
爪は前の日の夜にやすりで整え、当日のお部屋に入る直前にもう一度確認します。
背中をさすったり、腕の中に入っていただいたりするときに、爪がほんの少し当たるだけで、せっかくの眠気が飛んでしまうからです。
髪の毛も同じです。 顔にかかってくすぐったい思いをさせないよう、就寝の体勢に入る前にひとつにまとめます。
これは色気を消す作業のように見えるかもしれませんが、私の中では逆で、眠っている方の安心を守るためのいちばん大事な準備のひとつです。
お客様の中には、車椅子でお越しの方や、身体に触れられる強さに敏感な方もいらっしゃいます。
そうした方のご利用が予定されている日は、爪はさらに短く、保湿もいつもより念入りにしてからお部屋に向かいます。
こどもの日が近い、ある夜のことです。
半袖でいらしたお客様が、お部屋に入って三十分ほどで腕に鳥肌を立てられているのに気づきました。
私は何も言わず、毛布をもう一枚足元から引き上げて、自分の腕を上から重ねました。
それから一分ほどして、寝息が深くなりました。
温度も、湿度も、爪の長さも、ひとつひとつは小さなことです。
ただ、その小さなことの積み重ねでしか作れない眠りがあるのだと、五月の夜にあらためて感じています。

